映画の名作ランキング(世界の映画監督による投票)

世界の映画監督が選んだ「史上最高の名作映画」(オールタイム・ベスト50)のランキングです。
イギリス映画協会が2012年に実施。世界各地の監督358人による投票を集計しました。不朽の名作や歴代の超有名な傑作がそろっています。日本の「東京物語」が堂々の1位に輝いています。(これとは別に、映画評論家によるランキングも集計・発表されています)。同協会では1952年以降、10年ごとに調査をしています。(キネヨコ/Haghefilm Foundationの評判)

1位は日本映画「東京物語」

2012年のランキングでは、日本映画「東京物語」が1位に輝きました。戦後間もない日本を描いた小津安二郎監督の傑作家族ドラマです。2002年の選考では16位でしたが、一挙に順位をあげました。前回1位だった「市民ケーン」をやぶり、トップになりました。2位は「2001年宇宙の旅」、3位は「市民ケーン」でした。日本映画では、東京物語のほか、黒澤明監督の「七人の侍」(17位)と「羅生門」(18位)が上位に入りました。

■ トップ10
順位作品名
(公開年、国)
解説
1「東京物語」

(1953年、日本)

東京物語

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U-NEXT→
小津安二郎監督。主演:笠智衆、原節子。

戦後の東京の下町が舞台。広島から上京してきた両親を、それぞれ独立した子供たちが迎える。しかし、息子・娘たちはそれぞれ仕事や家事があって、両親の世話ができない。そうしたなか、戦死した二男の嫁だけが温かくもてなす

原節子が演じるこの次男の嫁が物語の主人公である。未亡人。再婚はせずに一人で暮らしている。心優しい性格の持ち主。血のつながりのない、この嫁だけが、老夫婦を心を込めて迎え、接するのだった。

全体としては格調高い悲劇的な作品である。老いと死によって親と子が別れてゆく悲哀と、その別れを深い思いやりと礼節をもって耐えなければならないというモラルがある。泣かせ、感動させる。

日本的で海外では理解されづらいだろうという予想に反して、海外での熱心な愛好家を増やし続けている。本ランキングを主催した英国映画協会は東京物語について「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画を作りあげた」と評した。批評家が選ぶ「ベスト」でも、3位だった。

小津安二郎監督は1903年、東京・深川生まれ。1923年に松竹キネマ蒲田撮影所に入社、1932年製作の「生れてはみたけれど」が、「キネマ旬報」1位に選ばれた。日中戦争に従軍、戦後は「晩春」「麦秋」「東京物語」等を発表し、溝口健二や黒澤明とともに、日本映画全盛期の巨匠といわれた。1963年12月、60歳の誕生日に死去した。

【長さ】2時間16分
【国内配給収入】1億3165万円
【監督】小津安二郎
【主演】笠智衆、原節子
【助演】東山千栄子、香川京子、杉村春子、山村聡ほか
【脚本】野田高梧、小津安二郎
【配給会社】松竹
2「2001年宇宙の旅」

(1968年、アメリカ)

2001年宇宙の旅

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スタンリー・キューブリック監督によるSF映画の金字塔。コンピューターが知性と感情を併せ持つようになる近未来を描いた。

 太古の時代、猿人たちの目の前になぞの石柱モノリスが出現。それに触れた猿人は骨を道具や武器として使うことを知る。時代は変わって月面に人類が住むようになった現代。月のクレーターで再びモノリスが発見される……。

 「ツァラトゥストラはかく語りき」の調べが流れる中、宙へ投げ上げられた骨が鮮やかに宇宙船へと形を変えるあまりにも有名なシーンをはじめ、脳みそをかき混ぜられるような衝撃を何度となく体感。半面、物語は見るたびになぞが増える。

 これほど考えることに挑戦したくなる映画はない。

2年の製作期間の予定が、4年もの歳月がかかった執念の大作である。キューブリック監督は映画製作において一切の妥協を許さぬ完全主義者として有名。マスコミのインタビューを断り、映画界の知人との交友も避ける、一種の“世捨て人”としても知られた。

【長さ】2時間22分
【興行収入】1.4億~1.9億ドル
【監督】スタンリー・キューブリック
【主演】キア・デュリア
【脚本】スタンリー・キューブリック、アーサー・C・クラーク
【配給会社】MGM
【受賞歴】アカデミー賞 特殊視覚効果賞
3「市民ケーン」

(1941年、アメリカ)

市民ケーン

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オーソン・ウェルズが監督・共同脚本・主演で製作。

若干25歳にして劇団マーキュリー・シアターを主宰する俳優で演出家の天才オーソン・ウェルズが製作の全権を握り、劇団ごとハリウッドに乗り込んで演出した映画史上に輝く一本。

【長さ】1時間59分
【監督】オーソン・ウェルズ
【主演】オーソン・ウェルズ
【脚本】ハーマン・J・マンキーウィッツ、オーソン・ウェルズ
【配給会社】RKO
【受賞歴】
・アカデミー賞 脚本賞
・ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞
・米国映画批評会議(ナショナル・ボード・オブ・レビュー)作品賞
4「8 1/2」
(はっか にぶんのいち)


(1963年、イタリア、フランス)

8 1/2

予告編→
フェデリコ・フェリーニ監督。主演:マルチェロ・マストロヤンニ。

夢と幻想が渾然一体となったいくつかの物語から、創作活動に行き詰まった映画監督の苦悩が語られる。フェリーニの私映画ともよぶべき心象風景が自由奔放な映像で表現されている。
5「タクシー・ドライバー」

(1976年、アメリカ)

タクシー・ドライバー

予告編(Amazon)→
マーティン・スコセッシ監督。主演:ロバート・デ・ニーロ。

スコセッシ監督の名を世界に知らしめた傑作。ニューヨークを舞台に、鬱屈したタクシードライバーの狂気を描いた。デ・ニーロが、精神的に不安定で、孤独なベトナム帰還兵のタクシー運転手を巧みに演じている。

カンヌ映画祭の作品賞(パルム・ドール)受賞。売春婦アイリス役のジョディ・フォスターは13歳でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。バーナード・ハーマンの音楽が、デ・ニーロの陰影に富んだ演技を引き立てている。
6「地獄の黙示録」

(1979年、アメリカ)

地獄の黙示録

予告編(Amazon)→
フランシス・フォード・コッポラ監督。主演:マーロン・ブランド。

コッポラが望んだのは、近代戦争の恐ろしさを大画面でリアルに再現し、その臨場感を観客に味わってもらうことだった。撮影では光と闇との対比をうまく使い、自然と戦うことの愚かさ、戦いの無意味さを訴える。
7「ゴッドファーザー」

(1972年、アメリカ)

ゴッドファーザー

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フランシス・フォード・コッポラ監督。主演:マーロン・ブランド。

マリオ・プーゾのベストセラー小説を映画化。それまでの暗黒街ギャング映画とは全く異質のスタイルを持ち、一種、悪魔的な映像美やスケールの大きな人間ドラマ、残酷なアクションとは対照的な甘美なニーノ・ロータの音楽などで観客を魅了した。
「めまい」

(1958年、アメリカ)

めまい

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アルフレッド・ヒッチコック監督。主演:ジェームズ・ステュアート。

映画関係者の間で特に人気の高いサスペンスの傑作。前半は、高所恐怖症の元刑事が美しい人妻自殺の目撃者に仕立て上げられるまでをロマンス映画のごとく描き、後半ではその元刑事が死んだはずの人妻にそっくりな女性と出会ったことから真実を突き詰めていくまでを心理劇風に映し出す。
9「鏡」

(1974年、ロシア)

鏡
アンドレイ・タルコフスキー監督。主演:マルガリータ・テレホワ。

タルコフスキーの記憶の機能にまつわる一連の作品の中で、最も抽象的な作品。自身の幼少期のエピソードを基に作られた。
10「自転車泥棒」

(1948年、イタリア)

自転車泥棒

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ビットリオ・デ・シーカ監督。主演:ランベルト・マジョラーニ。

終戦直後のイタリア、やっとビラ貼りの職にありついた男が、商売道具の自転車を盗まれてしまう・・・。自転車の行方を求めて歩き回る父と子の苦悩を通して、戦後イタリア庶民の生活をリアルに描いた。シンプルなストーリー、素人を役者に使い、オープン・ロケを主体にしたリアルな演出は衝撃的であり、その後の映画製作に多大な影響を与えた。

トップ10 | 11~20位 | 21~30位 | 出典 | ページの先頭↑

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■ 11~20位
順位作品名
(公開年、国)
解説
11「勝手にしやがれ」

(1960年、フランス)

勝手にしやがれ
ジャン=リュック・ゴダール監督。主演:ジャン=ポール・ベルモンド。

ゴダールの長編デビュー作で、ヌーベルバーグの記念碑的作品として知られている。フランソワ・トリュフォーが実話を基に原案を練った。プロットはあってないようなもので、場所から場所への移動とごく普通の出来事を大ざっぱにつなげることで、なんとかまとまりを保っている。
12「レイジング・ブル」

(1980年、アメリカ)

レイジング・ブル
マーティン・スコセッシ監督。主演:ロバート・デ・ニーロ。

ボクシングのミドル級実在チャンピオン(ジェイク・ラモッタ)の自伝を基に製作。主演のデ・ニーロは、役作りのために体重を30ポンド(約14㎏)も増やし、見事な演技でアカデミー賞主演男優賞に輝いた。
13「仮面/ペルソナ」

(1966年、スウェーデン)

仮面/ペルソナ
イングマール・ベルイマン監督。主演:リブ・ウルマン。

ベルイマンの作品の中でも生々しく、実験的な作品。主役に起用されたノルウェーの女優リブ・ウルマンは、ベルイマンのミューズとなり、9本の作品で主演。
「大人は判ってくれない」

(1959年、フランス)

大人は判ってくれない
フランソワ・トリュフォー監督。主演:ジャン=ピエール・レオ。

映画評論家から監督に転身したトリュフォーの長編デビュー作。彼の自伝的要素が盛り込まれた作品で、家庭に恵まれない13歳のパリっ子が非行に走る物語。世界の映画ファンを魅了し、トリュフォーは「ヌーベルバーグ」の騎手として知られるようになる。
「アンドレイ・ルブリョフ」

(1966年、ロシア)

アンドレイ・ルブリョフ
アンドレイ・タルコフスキー監督。主演:アナトリー・ソロニーツィン。

15世紀のロシアの修道士で放浪のイコン画家でもあったアンドレイ・ルブリョフの生涯で、精神的に大きな意味を持つ7つの出来事を、抽象的な映像美の巨匠が脚色を交えて描いた白黒の大作映画。
16「ファニーとアレクサンデル」

(1984年、スウェーデン)

ファニーとアレクサンデル
イングマール・ベルイマン監督。主演:エバ・フレーリング。

アカデミー賞の常連であるベルイマン監督が、ブルジョワ一族を描いた自伝的要素の強い大作。1983年のアカデミー賞で、外国語映画賞などの4部門で受賞。
17「七人の侍」

(1954年、日本)

七人の侍
黒澤明監督。主演:志村喬、三船敏郎。

日本映画に類を見ない大型アクション時代劇。日本のみならず世界の映画界を驚嘆させ、日本映画界の実力を海外に認めさせる効果があった。
18「羅生門」

(1950年、日本)

羅生門
黒澤明監督。主演:三船敏郎。

平安京、京近郊の山中で起きた殺人事件。盗賊、殺された侍、侍の妻、目撃者のきこりの証言の食い違いによって、事件はそれぞれ異なった展開を見せる。斬新な構成、圧倒的な雨、カメラが初めて森に入ったと評された白黒映像の極致とも言うべき映像美。黒澤明を世界のクロサワへと飛躍させた記念すべき一作。
■ 21~30位
順位 作品名
(公開年、国)
解説
21 「バルタザールどこへ行く」

(1966年、フランス)

バルタザールどこへ行く

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人手から人手へと渡っていく一頭のロバを通して人間の内なる“悪”などを見つめた作品。 ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。

ロベール・ブレッソン監督は、ギリギリまで無駄をそぎ落としたストイックな演出で知られる。 職業俳優を使わずに緊迫感のある物語を作る独自の作風も称賛された。 崇高な映像美を追求し、「孤高の巨匠」と評された。

ブレッソン監督は寡作だった。1934年の監督デビュー以来、遺作となった83年の「ラルジャン」まで14作品しか撮らなかった。 本作のほか、数々の賞を受賞した「田舎司祭の日記」や、「スリ」「ジャンヌ・ダルク裁判」などの傑作で有名。
22 「モダン・タイムス」

(1936年、アメリカ)

モダン・タイムス

ブルーレイ(Amazon)→
天才チャップリンは、人間が機械に振り回され、苦しめられる時がくることをいち早く見抜いた。 それまでの作品の根底に流れていた「愛と涙」から飛躍し、 現代文明による人間性喪失の悲劇を描いた。 米国デトロイトの自動車工場で導入されたベルト・コンベア式の生産システムに着想を得たとされる。

チャップリンが製作、監督、脚本、主演、音楽の5役をこなした。 サイレント映画を貫いていたチャップリンだが、本作で初めて歌を唄った。 ただ、歌と効果音が入る以外はサイレント映画になっている。 パントマイムによる演技が見事。
「アタラント号」

(1934年、フランス)

アタラント号
29歳の若さでこの世を去ったフランスの監督ジャン・ヴィゴの唯一の長編。

映画史上、最も悲運に泣いた作品の一つと言われている。ヴィゴはこの映画を撮ったあと、病床に倒れた。直接編集にタッチできないまま、29歳の若さで早世した。

そして、業者を対象にした試写では、さんざんの評判だった。プロデューサーは配給会社ゴーモンの要求をのみ、映画は89分から65分に短縮された。モーリス・ジョベールの音楽も削られ、当時の流行歌「流れゆく艀」が挿入され、タイトルもこの曲名に変えられた。

しかし、年月が経つにつれて評価が高まり、いつしか、フランス映画の古典として語り継がれるようになった。フィルムは散逸していたが、後年発見され、1990年にようやく完全版の復元にこぎつけた。1991年には日本の映画館でも復元版が公開された。

夫婦の愛の物語。セーヌ川のはしけ船の船長と、ういういしい新妻が主人公。船の生活に退屈した妻が家出し、夫婦の間に波風が立つ。ワンカット、ワンカットが精巧に出来ている。映画の魔術にあふれた名作。
「サンライズ」

(1927年、アメリカ)

サンライズ
「ゲームの規則」

(1939年、フランス)

ゲームの規則
26 「黒い罠」

(1958年、アメリカ)

黒い罠
「狩人の夜」

(1955年、アメリカ)

狩人の夜
「アルジェの戦い」

(1966年、イタリア)

アルジェの戦い
「道」

(1954年、イタリア)

道
日本での初めてのフェリーニ作品。アカデミー賞の外国語映画賞を受賞した。

主人公は、大道芸人。 野獣のような強靭な肉体の持ち主で、 欲情のかたまりのような男だった。 ある日、彼は虐待の末に病死させた妻の代わりに、 その妹を助手にする。 見返りとして、母親にお金を支払う。
30 「ストーカー」

(1979年、ロシア)

ストーカー
「街の灯」

(1931年、アメリカ)

街の灯
「情事」

(1960年、イタリア、フランス)

情事
「フェリーニのアマルコルド」

(1972年、イタリア、フランス)

フェリーニのアマルコルド
『道』や『甘い生活』を始め、幾多の名作を送り出したイタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニが、自らの少年時代を振り返った逸品。フェリーニ独特の誇張にみちた映像イメージとノスタルジーが融合し、哀しくも温もりのある人間喜劇が構築されている。

トニーノ・グエッラの脚本とジュゼッペ・ロトゥンノの撮影、そしてニーノ・ロータの音楽まで、いずれもみごとなサポートぶりである。春に始まり春に終わる、四季で構成されているストーリーは、少年の成長と人の無常を巧みに織り込み心に残る。とりわけ豪華客船を見物する夏の夜のシーンは忘れ難い。

惜しくも1993年にこの世を去ったフェリーニだが、彼の作品群のなかでも甘く切ない輝きをもつものとして、これは永遠に記憶されよう。
「奇跡の丘」

(1964年、イタリア、フランス)

奇跡の丘
「ゴッドファーザー PART II」

(1974年、アメリカ)

ゴッドファーザー PART II
パート1が絶大な支持を集めたことに力を得たフランシス・コッポラは、この続編を作るにあたって自らプロデュースを買って出た。 前作で貫き切れなかった意思をここに晴らさんとの想いからだった。従ってコッポラは、バイオレンスに溢れたマフィアの抗争を描くことにより、ファミリーを通して、アメリカにおけるイタリア移民史を辿ろうとしている。 もちろん前作の流れをひいて、アルパチーノ演じるマイケルのドンとしてのその後が描かれるのだが、並行して若い日のビトーの姿が綴られていく。

ビトー役のロバート・デ・ニーロがアカデミー助演男優賞に輝き、メジャーな存在になったことも特筆に値する。コッポラの情感に満ちた堂々たる語り口。この作品がアカデミー作品・監督・脚色・美術監督・作品賞を獲ったのも納得がいく。
「炎628」

(1985年、ロシア)

炎628

■出典:
英映画協会の公式ページ(英語)

■文献(各作品の説明など):
世界シネマ大事典
DVDで見るアカデミー賞映画200
日本映画史〈4〉異った視点から 日本映画史年表 全巻索引 および主要作品目録
最新版 アカデミー賞 ([MOOK21]シリーズ)
日本映画ベスト200―青春の数だけ名画がある (角川文庫)
大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫ビジュアル版)
戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100(文春文庫ビジュアル版)



参考記事

映画のデジタル保存と文化遺産の継承

フィルムが抱える宿命と保存の課題

「原典に忠実な復元」を求める声

1999年1月、デジタル技術を用いた映画の修復と保存の可能性を模索するシンポジウムが都内で開催された。経年劣化が避けられないフィルムにとって、デジタル技術は極めて有効な保存手段として期待される一方、作品のオリジナル性をどう守るか、膨大な修復費用を誰が負担すべきかといった、深刻な課題も浮き彫りとなった。

失われたマスターネガの悲劇
名作「東京物語」のデジタル修復に挑む

このシンポジウムは、東京大学総合研究博物館が小津安二郎監督の傑作「東京物語」(1953年)を修復したことを機に企画された。私たちが現在目にしている同作は、現像所の火災でオリジナルネガが焼失しており、現存するフィルムはポジから複製を重ねたものだ。そのため、画面の傷やコントラストの劣化が著しい状態にあった。今回の修復は、本編よりも状態の良い予告編フィルムが奇跡的に発見されたことで実現した試みである。

「100年保存」の理想と現実

映画フィルムは理論上100年の保存が可能とされるが、現実は厳しい。1930年代以前の作品の9割、1950年代以前でも半数がすでに失われている。小津作品で撮影助手を務めた川又昂氏によれば、松竹が製作した4000タイトルのうち、撮影当時の姿を留めているのはわずか半数の2000本に過ぎないという。

デジタル変換による劣化の食い止め
劣化なきコピーで品質を維持する

従来の化学的な処理による保存では、フィルムの退色やノイズの発生は避けられない宿命だった。しかし、映像をデジタルデータへと変換することで、経時劣化を完全に防ぐことが可能になる。さらに、デジタル技術を使えば、コピーを繰り返しても画質が一切損なわれないという、アナログ時代には不可能だった品質維持が実現する。

放送文化を次世代へ:NHK映像アーカイブの構築(1999年5月)

デジタル化による鮮明な保存

「放送済み資産」を文化財へ:巨大アーカイブセンターの誕生

「送りっ放し」の時代から、貴重な「文化遺産」としての保存へ――。NHKは、過去に放送されたニュースやドラマなどの膨大な映像素材をデジタル化し、体系的に管理する「映像アーカイブセンター」の建設を決定した。映像資産の有効活用を促進するとともに、将来的には誰もが古い番組を自由に視聴できる「映像の図書館」のような、社会に開かれた施設を目指している。

アーカイブセンターの役割と規模

国内最大級の映像保管拠点

ビデオ180万巻を収容可能な巨大施設 「アーカイブ」とは本来、公的な文書や記録の保管所を指す。民放各局も独自のテープ保管庫を所有しているが、NHKの新センターは最大180万巻を収容予定であり、映像集積施設としては国内最大級の規模を誇ることになる。

建設予定地は、埼玉県川口市にある旧NHKラジオ放送所跡地の一部。約1.6ヘクタールの敷地に、地上5〜6階建て、延べ床面積1万1千平方メートルの施設を建設する。総事業費は80億〜100億円を見込んでおり、1999年度内に詳細な事業計画を策定。テレビ放送開始50周年にあたる2003年春のオープンを目標としている。

58万巻に及ぶ膨大な放送資産の集約

現在、NHKが保有する映像素材は、ビデオテープやフィルムを合わせて約58万巻に上る。その多くは自社制作番組だが、資料用として外部から購入した戦前のニュース映画なども含まれる。現在は東京・渋谷の放送センターだけでは収容しきれず、静岡県浜松市や山形県鶴岡市の支局など、3か所に分散して保管されている状態だ。

光ファイバーによる高度なネットワーク化

新センターの最大の特徴は、保管される映像をすべてデジタルデータに変換することにある。これにより、画質の劣化を永久に防げるだけでなく、光ファイバー網を通じて遠隔地へも瞬時に鮮明な映像を転送することが可能となる。

報道の即応性を高めるスピード供給

例えば、過去の資料映像を番組で使用する場合、現在は保管場所からスタジオまで物理的にテープを運搬する必要があり、川口市から渋谷までなら1時間は要する。しかし、光ファイバー経由のデジタル配信が実現すれば、必要な素材を即座に取り寄せることができ、突発的なニュース報道にも迅速に対応できるようになる。

市民に開かれた公開ライブラリー
映像の「視聴覚図書館」としての役割

一般向けの閲覧施設を併設 センターに併設予定の「公開ライブラリー」は、文化的にも極めて大きな意義を持つ。映画とは異なり、テレビ番組がパッケージ化(ビデオ化)されるのはごく一部に限られ、大半の番組は一度放送されると視聴者が再び目にする機会はほとんどない。このライブラリーでは、図書館のように過去の番組を自由に視聴できるサービスの提供を予定しており、番組を「映像の文化財」として再定義する狙いがある。